3.6.1 Hilbert 空間の場合

Hilbert 空間においては、 一般の Banach 空間よりは事情がシンプルである。 まずはこの場合から考えよう。

(3.3) については、 $ A$ が稠密な定義域を持つ線型作用素であるという緩い仮定 (これは共役作用素を定義するのに必要だ) の下で一般化

$\displaystyle Y=N(A^\ast)\oplus \overline{R(A)}
$

が成り立つ。 共役作用素の核 $ N(A^\ast)$ はつねに閉部分空間であること、 $ R(A)$ は無条件では閉部分空間にならないことに注意しよう。

一方 (3.4) については、 $ A$ が稠密な定義域を持つ線型作用素であるという仮定で

$\displaystyle X=N(A)\oplus \overline{R(A^\ast)}
$

が成り立つ。 $ A$ が閉作用素という仮定から $ N(A)$ が閉部分空間となるが、 まったくの無条件では $ N(A)$ が閉部分空間であることは 保証されない3.1。 当然 $ R(A^\ast)$ も無条件では閉部分空間にならない。

ともあれ、 Hilbert 空間では、 稠密な定義域を持つ閉線型作用素が閉値域であれば

$\displaystyle Y=N(A^\ast)\oplus R(A),\quad
X=N(A)\oplus R(A^\ast)
$

という有限次元空間と同じ結果が成り立つことになる。

桂田 祐史
2017-04-30