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11.3.0.2 定理 11.2 の証明

$ A$ $ n$ 次実対称行列とする。

    $\displaystyle {\cal P}$ $\displaystyle :=\left\{V; \text{$V$ は $\R^n$ の部分空間}, \forall x\in V\setminus\{0\}\quad (Ax,x)>0\right\},$
    $\displaystyle {\cal N}$ $\displaystyle :=\left\{V; \text{$V$ は $\R^n$ の部分空間}, \forall x\in V\setminus\{0\}\quad (Ax,x)<0\right\},$
    $\displaystyle {\cal Z}$ $\displaystyle :=\left\{V; \text{$V$ は $\R^n$ の部分空間}, \forall x\in V\setminus\{0\}\quad (Ax,x)=0\right\}$

とおく。 $ \{0\}\in{\cal P}$ , $ {\cal N}$ , $ {\cal Z}$ であるから、 $ {\cal P},{\cal N}, {\cal Z}\ne\emptyset$ .

$\displaystyle N_p:=\max\{\dim V; V\in{\cal P}\},\quad
N_n:=\max\{\dim V; V\in{\cal N}\},\quad
N_z:=\max\{\dim V; V\in{\cal Z}\}
$

が定まる (念のため: $ \dim\{0\}=0$ である)。

主張: $ N_p=\pi(A)$ , $ N_n=\nu(A)$ , $ N_z=\zeta(A)$ .

$ A$ は実対称行列であるから、 固有ベクトルからなる正規直交基底 $ v_1,\cdots,v_n$ が存在する。 $ A v_j=\lambda_j v_j$ として、

$\displaystyle V_p:=\mathrm{Span}\{v_j; \lambda_j>0\},\quad
V_n:=\mathrm{Span}\{v_j; \lambda_j<0\},\quad
V_z:=\mathrm{Span}\{v_j; \lambda_j=0\}
$

とおくと、 $ V_p\in{\cal P}$ , $ V_n\in{\cal N}$ , $ V_z\in{\cal Z}$ . $ \dim V_p=\pi(A)$ , $ \dim V_n=\nu(A)$ , $ \dim V_z=\zeta(A)$ であるから、 $ N_p$ , $ N_n$ , $ N_z$ の最大性によって

($ \sharp$ ) $\displaystyle N_p\ge \pi(A), \quad N_n\ge \nu(A), \quad N_z\ge \zeta(A).$

さて、一般に

$\displaystyle W_p\in{\cal P},\quad W_n\in{\cal N},\quad W_z\in{\cal Z}
\quad\THEN\quad
W_p\cap W_n=W_N\cap W_z=W_z\cap W_p=\{0\}
$

が成り立つことは容易に証明できる。 $ W_p$ , $ W_n$ , $ W_z$ として、特に

$\displaystyle \dim W_p=N_p,\quad
\dim W_n=N_n,\quad
\dim W_z=N_z
$

を満たすものを取って、

$\displaystyle W_p\oplus W_n\oplus W_z\subset\R^n
$

において、次元を調べる。($ \sharp$ ) を用いると

$\displaystyle n=\pi(A)+\nu(A)+\zeta(A)\le N_p+N_n+N_z\le n.
$

左辺と右辺が一致するので、不等式はすべて等式で

$\displaystyle N_p=\pi(A), \quad N_n=\nu(A), \quad N_z=\zeta(A)$   (主張の証明終わり)$\displaystyle .$

さて、正則行列 $ P$ による変換 $ x=P y$ で、

$\displaystyle (Ax,x)=\sum_{j=1}^n \mu_j y_j^2
$

になったとする。簡単のために順番を修正して、 最初の $ p$ 個は正,次の $ q$ 個は負、残りは 0 , と出来る。つまり

$\displaystyle (Ax,x)=\alpha_1 y_1^2+\cdots+\alpha_p y_p^2
-\alpha_{p+1} y_{p+1}^2-\cdots-\alpha_{p+q} y_{p+q}^2,\quad
\alpha_j>0$   ( $ 1\le j\le p+q$ )

として良い。
(a)
$ p$ 次元空間 $ \{P y; y_{p+1}=\cdots=y_n=0\}$ では $ (Ax,x)>0$ になるので、 $ p\le\pi(A)$ .
(b)
$ q$ 次元空間 $ \{P y; y_1=\cdots=y_{p}=y_{p+q+1}=\cdots=
y_n=0\}$ では $ (Ax,x)<0$ になるので、 $ q\le\nu(A)$ .
(c)
$ n-(p+q)$ 次元空間 $ \{S y; y_1=\cdots=y_{p+q}
=0\}$ では $ (Ax,x)=0$ になるので、 $ n-(p+q)\le\zeta(A)$ .
(c) から $ p+q+\zeta(A)\ge n$ であるが、 (a) から $ \pi(A)\ge p$ , (b) から $ \nu(A)\ge q$ であるから、

$\displaystyle n=\pi(A)+\nu(A)+\zeta(A)\ge p+q+\zeta(A)\ge n.
$

両端が等しいので、途中はすべて等式で $ p=\pi(A)$ , $ q=\nu(A)$ . $ \qedsymbol$

定理 11.3 の直接的な証明が見たければ、 杉原・室田 [8] を見よ (もちろん前項の議論から、間接的には証明は済んでいる)。


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桂田 祐史
2015-12-22