自分自身が最初のうち景色が見えなかったので、色々書いてみる。
Sylvester の慣性律とは、 2次形式を平方完成したときの係数の符号が、 平方完成のやり方 (それはたくさんある) によらずに決まる、 という事実を定式化したものである。
平方完成のことを「2次形式の対角化」ともいう。 それは議論を行列の言葉で書くことが出来て、 与えられた対称行列 (2次形式の係数行列) に対して、 適当な正則行列 を見つけて、 を対角行列にする操作に相当しているからである。
この変換 は、 相似変換 と似ているが、 一応は別物であることに注意する (前者は正則な線形変数変換によるもので、 後者は基底の取り替えによるものである)。 ややこしいのは、対称行列の固有値問題では、 直交行列 ( を満たす行列) で対角化するため、 両者が重なってしまうことである (個人的にはかなり混乱したところ)。
何に使われるかについても、あらかじめ、少しは知っておいた方が良いかもしれない。
大学1,2年次に遭遇する適用例としては、 多変数関数の極値問題を微分法で扱う際に、2階までの Taylor 展開をしたとき、 2次の項が2次形式になっている、というのがある (大抵の微積のテキストには書いてあるが、例えば桂田 [4])。 が 変数関数で、内点 で極値を取るには、 が必要で、そのとき
そこで2次形式の符号に興味が出て来るわけである。 どういう場合があって、どうやれば判定できるか。 他にも Morse の Lemma などで、 関数の「様子」を理解するために使われる。
数値線形代数においては、固有値を求めるための2分法というアルゴリズムが、 Sylvester の慣性律で理解出来る、という応用もある。
もう少し式を使って具体的な話として書いてみる。
「2次形式の対角化」は、次の二つの同値な問題である。
となる正則線形変換 を求める問題
(ここで ) |
, は によらず だけで定まる。さらに実は である。
として一般の正則変換を許せば (つまり )、 ( ) と出来る。
として直交変換に限っても対角化は可能で (もちろん , も変わらない)、そのときは の対角成分 , , , , , , 0 , , 0 は の固有値である。
三角行列の積の形に分解する話との関係。
となる ( の 分解)。 は例えば Gauss の消去法などのアルゴリズムで計算出来る。
となる ( のCholesky分解)。
( ) でない場合にどうするかについて 述べてみよう。 その後で何をしたいかによってやることが異なる、と理解すべきである。
連立1次方程式 を解くために を何らかの意味で分解するのが 目的ならば、 適当な置換行列 (上の議論と文字がかぶるけど大目に見て下さい) と、単位下三角行列 が取れて
となる、というのが一つの目標となるだろう。
行列の符号の判別をしたい場合は、