3 (Bochner 積分版) 微分積分学の基本定理

この節の内容は日本語では 宮寺 [2], 田辺 [5] が詳しい。

Banach 空間値関数に定理 $ \mathrm{I}'$ が拡張される。 すなわち、次の定理が成り立つ。

\begin{jtheorem}[定理 $\mathrm{I}''$]
$X$\ が Banach 空間、
$x\in L^1\lef...
...laymath}
y'(t)=x(t)\quad\mbox{a.e. on $[a,b]$}.
\end{displaymath}\end{jtheorem}
これは定理A.1 である。 証明は宮寺 [2], 田辺 [5], 吉田 [5] を見よ。 $ \qedsymbol$


\begin{jtheorem}
% latex2html id marker 107 [定理 $\mathrm{II}''$]
$X$\ が B...
...分可能性}) は $y$\ の絶対連続性から導かれる。)
\end{jtheorem}
これは定理A.2 の簡単な系である。 証明は宮寺 [2], 田辺 [5] を見よ。 $ \qedsymbol$

この定理の結果の式は

$\displaystyle \int_a^b y'(t)\,\D t=\left[y(t)\right]_a^b
$

であるが、 Banach 空間値の関数に対しては $ y\in\mathrm{AC}$ というだけでは $ y'$ の存在 は保証されない (つまり一般の Banach 空間値の関数については、 Radon-Nikodym の定理は成立しない) ことに注意する。

さて、部分積分であるが、 一般の Banach 空間では積が定義されないので、 とりあえずは次の命題を目標としよう (多分 Banach 環ならば大丈夫だと思う)。

\begin{jtheorem}[定理 $\mathrm{III}''$]
$X$\ は Banach 空間、$x\in\mathrm...
...ft[x(t)y(t)\right]_a^b-\int_a^b x(t)y'(t)\,\D t.
\end{displaymath}\end{jtheorem}
Radon-Nikodym の定理より、$ x$ はほとんど到るところ微分可能で、 $ x'$ は可積分である。 また 定理 A.2 より、 $ y$ はほとんど到るところ強微分可能で、$ y'$ は可積分となる。 ゆえにほとんど到るところで

$\displaystyle \left(x(t)y(t)\right)'=x'(t)y(t)+x(t)y'(t)
$

が成り立ち、両辺は可積分である (右辺の各項は連続関数と可積分関数の積として可積分である)。

$\displaystyle \int_a^b \left(x(t)y(t)\right)'\,\D t
=\int_a^b x'(t)y(t)\,\D t+\int_a^b x(t)y'(t)\,\D t.
$

左辺について、$ x y$ は絶対連続で、ほとんど到るところ $ (x y)'$ が存在して、$ L^1$ に属するので、 定理 $ \mathrm{II}''$ が使えて $ \left[x(t)y(t)\right]_a^b$ に等しい。 $ \qedsymbol$

桂田 祐史
2016-12-30