3.1.1 代数的直和、代数的補空間、代数的射影作用素

線形代数レベルの話である。


\begin{jdefinition}[代数的直和、代数的補空間]
線型空間 $X$\ と...
...の、$Y$\ は $Z$\ の\textbf{代数的補空間}という。
\end{jdefinition}

\begin{jremark}
一つの空間 $Y$\ に対して、代数的補空間は一意...
...い
(これは明らか)。
かならず存在するのかな?
\end{jremark}


\begin{jlemma}[代数的直和に伴う射影作用素]
線型空間 $X$\ が $...
...
\item $P+Q=I$, $P Q=Q P=O$.
\item $P^2=P$, $Q^2=Q$.
\end{enumerate}\end{jlemma}

証明

(1)
$ x_1$ , $ x_2\in X$ が与えられたとする。 次を満たす $ y_1$ , $ z_1$ , $ y_2$ , $ z_2$ が存在する。

$\displaystyle x_1=y_1+z_1,\quad y_1\in Y,\quad z_1\in Z,
$

$\displaystyle x_2=y_2+z_2,\quad y_2\in Y,\quad z_2\in Z.
$

このとき

$\displaystyle \lambda x_1+\mu x_2
=(\lambda y_1+\mu y_2)+(\lambda z_1+\mu z_2),
\quad
\lambda y_1+\mu y_2\in Y,\quad
\lambda z_1+\mu z_2\in Z
$

となるので、

$\displaystyle P(\lambda x_1+\mu x_2)
=\lambda y_1+\mu y_2
=\lambda P x_1+\mu ...
...\quad
Q(\lambda x_1+\mu x_2)
=\lambda z_1+\mu z_2
=\lambda Q x_1+\mu Q x_2.
$

(2)
$ x\in X$ に対して、

$\displaystyle x=y+z,\quad y\in Y,\quad z\in Z
$

を満たす $ y$ , $ z$ がある。$ y=P x$ , $ z=Q x$ であるので、

$\displaystyle x=y+z=P x+Q x=(P+Q) x
$

であるから、$ I=P+Q$ . また $ y$ , $ z$ の分解は

$\displaystyle y=y+0,\quad y\in Y, \quad 0\in Z,
$

$\displaystyle z=0+z,\quad 0\in Y, \quad z\in Z
$

であるから、$ P y=y$ , $ Q y=0$ , $ P z=0$ , $ Q z=z$ . ゆえに

$\displaystyle P Q x=P(Q x)=P z=0,\quad
Q P x=Q(P x)=Q y=0.
$

これは $ P Q=Q P=O$ を意味する。
(3)
(2) の証明に続いて、

$\displaystyle P^2 x=P(P x)=P y=y=P x,\quad
Q^2 x=Q(Q x)=Q z=z=Q x
$

となるので、$ P^2=P$ , $ Q^2=Q$ . $ \qedsymbol$


\begin{jdefinition}[代数的射影作用素]
線型空間 $X$\ が $Y$\ と $Z...
...\ の $Y$\ への\textbf{代数的射影作用素}とよぶ。
\end{jdefinition}


\begin{jremark}
個人的には用語法があまり適切でないと感じて...
... への射影」という表現は誤解を招きやすい。 \qed
\end{jremark}

代数的射影作用素 $ P$ $ P^2=P$ を満たすわけだが、 逆にこの性質を持つ線型作用素があるとき、 一つの代数的直和分解が得られることを以下に示す。 先走って標語的にまとめておくと、

代数的直和分解 $ \longleftrightarrow$ 代数的射影作用素


\begin{jlemma}
$X$\ は線型空間、$P\colon X\to X$\ は線型作用素で...
...h}
x\in Y\quad\LongIff\quad P x=x.
\end{displaymath}\end{enumerate}\end{jlemma}

証明

(1)
(どれも単純な計算で証明できる。) $ P+Q=I$ は明らか。 $ P Q=P(I-P)=P-P^2=O$ , $ Q P=(I-P)P=P-P^2=O$ , $ Q^2=(I-P)(I-P)=I^2-2P+P^2=I-P=Q$ .
(2)
$ x\in Y$ とすると、 $ \exists x'\in X$ s.t. $ P x'=x$ . 両辺に $ P$ をかけて $ P^2 x'=P x$ . $ P^2=P$ より左辺 $ =P^2 x'=P x'=x$ であるから、$ P x=x$ . 逆に $ P x=x$ のとき $ x\in P X=Y$ であるのは明らか。 $ \qedsymbol$


\begin{jproposition}
$X$\ は線型空間、$P\colon X\to X$\ は線型作用...
...\ とおくと、$X$\ は $Y$\ と $Z$\ の直和になる。
\end{jproposition}

証明

$ P+Q=I$ より、$ Y+Z=X$ . また $ P Q=O$ より $ Y\cap Z=\{0\}$ である (実際 $ x\in Y\cap Z$ とすると、$ x=P x$ , $ x=Q x$ であるから、 $ x=P x=P Q x=O x=0$ となり、 $ Y\cap Z=\{0\}$ が示される)。 $ \qedsymbol$

桂田 祐史
2017-04-30